「フリーダイビングの魅力」
息を堪えることは誰しも一度は試したことがあるのではないでしょうか?プールで潜水をして注意を受けた経験がある人も多いことでしょう。人は無意識のレベルで息を堪えてみたくなる瞬間があると思うのです。「潜水は冒険であり、生への挑戦だ!」なんて大げさに言うつもりはありません。そもそもフリーダイビングが冒険だとしたら、スポーツとして成り立ちません。ただ単に潜ることは楽しいのです。この項を試しに息を堪えて読む気合いの入った方がいらっしゃるかどうかはわかりませんが、ここでは水とフリーダイビングの魅力をたっぷりと紹介しようと思います。ちょっと長いですけれど、最後までどうぞおつきあいくだされば嬉しいです。
息を堪えているみなさんが苦しくなる前に、まずは水について触れておきたいと思います。
水はとても身近なものですが、人間は水中では呼吸ができません。だからずっと水中で泳ぎ続けることは叶いません。
大昔、人間の遠い遠い祖先が海の中に住んでいた記憶がそうさせるのかどうかはわかりませんが、水中では一般的に潜水反射により陸上よりも息を堪えやすいことがわかっています。
また、水の感触というのは心地良いものです。水深が深いプールや透明度の高い海で泳いだ経験がある人の中には、まるで宇宙を漂っているような、空を飛んでいるような気分になったことがある人もいるかもしれません。身軽に素潜りをすると自分が自然の一部であるという感覚や、水との一体感を得られることがあります。
実は、人は進化の過程で潜ることを忘れてしまっただけなのかもしれません。もし、潜ることでその記憶の糸を紡いでいるのだとしたら?なんとなく無条件に潜水をしたくなってしまう気持ちがあるのはそこに由来しているのかもしれません。
フリーダイビングは一息で堪えられる時間や潜れる距離、または深度を競う競技です。無呼吸で記録を狙って潜るなんて、一見苦しくてシビアな競技のようですが、想像しているほど苦しいことばかりでもありません。水との一体感を感じられたり、とても穏やかで気持ちが良い一時もあるのです。肺の中に空気をいっぱい詰め込んで水の中に潜ると、普段ではなかなか気がつかないことが頭の中に浮かんできます。自らと対話をしたり、葛藤したり、心が安らぐような癒しの感覚を味わうこともあるでしょう。
フリーダイビングは他人と競うことよりも、自己に打ち克つ意志の強さを求められる競技なのです。あわせて緊張や不安を乗り越えるほどの精神のコントロールも重要になります。しかし、難しいことに気持ちだけが強ければいいという訳でもありません。逆に気持ちが強すぎて肉体の限界を超えてしまうと酷い時には意識を失ってしまうこともあるのです。自分の身体と相談し、ここだ!というポイントで競技を終られる感覚の鋭さも求められるスポーツなのです。まだ引き出せていない能力を磨いて鍛えていく楽しみもあります。そこもフリーダイビングの醍醐味のひとつです。
フリーダイバーはそれぞれの個性が輝いていることも魅力のひとつです。たとえば、息の長さにまかせて信じられないくらい長い時間をかけて潜る人もいれば、美しいフォームとスピードで短時間に距離を稼ぐスタイルの選手もいます。肺活量が大きければ有利にはなりますが、それが全てという訳でもありません。年齢層も幅広く、50代になっても若い選手に混じって第一線で活躍している選手がいることも面白いところでしょう。10代、20代選手が身体能力で優れているならば、50代の選手は経験値があり、メンタル面で優れていることが有利になるのです。マスターズやシニア等クラス分けがなく、全ての選手が同じ土俵で高見を目指していけることも他のスポーツにはない魅力だと思います。フリーダイビングは水中スポーツですから、身体への負担も軽く、水泳のように生涯スポーツとしても楽しめるのかもしれません。いつも調子よくベストに近い記録が出る訳でもないところや、心と身体両方が充実していると、急激に自己記録を更新することが稀にあるところも面白いと思います。
ここまでいろいろ挙げてみましたが、とはいえ一般的に競技で潜水をしようと思う人は少ないのかもしれません。ですが、選手にならないまでもスノーケリングやドルフィンスイムを楽しむ人たちを合わせれば、実は素潜りというのはかなり門戸が広いスポーツなのではないかと思うのです。
泳ぎが苦手な人でも足ひれを履けば泳げるという人は多いことでしょう。足ひれでグングン進む感覚が楽しいと感じる人も多いのではないでしょうか?イルカやクジラにはヒレがあります。人も足ひれを身につけることで、もっと自由に泳げるのです。足ひれには様々な材質や形状のものがあります。自分にぴったりと合う道具を探す楽しみもあるでしょう。イルカの尾ビレのような形状をしたモノフィンを一度履いたら一生忘れられない程の驚きと、何かがそこにあるかもしれません。
最後に、水の中で一人で息を止めることは、もしもの時に大変危険です。必ず複数名で行ってください。水の中で息を止めることの危険性を知り、安全に潜る意識を持つことで、より安全に、素潜り本来の醍醐味を味わうことができるのです。